東京外国語大学言語モジュールで英語も・英語以外の言語も学ぶ



 東京外国語大学による、27の言語についてインターネットで学ぶことを目的にした「東京外国語大学言語モジュール」について紹介します。東京外国語大学言語モジュールは、東京外国語大学の研究プログラム「言語運用を基盤とする言語情報学拠点」の研究成果として公開されているデータベースです。英語や英語以外の外国語についての基本的な情報や、発音練習、文法解説と問題、動画による会話練習、語彙など、言語を一から習得するのに必須の情報がまとめて公開されています。
 
 この言語モジュールを使って、英語の学習を更に効果的にしてほしいのですが、実は私は、皆さんには「他の外国語を学ぶ」という体験を高校生のときにしてほしいと思っています。それは、他の外国語の学習を通して、言語の面白さに気づいたり、「外国語=英語」や、「日本語は特別な言語である」といった考えを見直すきっかけにしてほしいからです。以下では、よくある日本語に対する2つの誤解をテーマにしながら、東京外国語大学言語モジュールを活用した学びの紹介をしたいと思います。
 
●「日本語は世界で一番難しい言語である」 ?
 本当でしょうか。確かに「漢字」「ひらがな」「カタカナ」という文字体系を持っている日本語は、外国語として学ぶには難易度が高そうです。私達が簡単に使いこなしているように見える文法も、実はかなり複雑なルールを駆使したものになっています。
しかし、言語を外国語として学ぶ際の難しさは、その言語の複雑さだけでは測ることができません。例えば中国語を母語にしている方が日本語を学ぶ際には、漢字の知識を参考にして学習をするので、英語を母語にしている人よりも効果的に学習をすすめることができます。
つまり外国語の難しさは、自分の母語のルールや文字体系からどれだけ離れているかどうかによるので、「世界一難しい言語はこれだ!」という断定はできないのです。ためしに、日本語同様に「難しい」ことで有名ロシア語を見てみましょう。


 
ロシア語は話者数が2億を超える言語で、6つの国連の公用語の1つでもあります。まず、文字を見てみると、日本語では顔文字によく使われているような文字がたくさん登場します。これは「キリル文字」と呼ばれている、英語のアルファベットとは別の経路で発達した文字です。文字を一から学ぶことを考えると、確かにロシア語は難しそうです。

しかし、ロシア語は複雑な「格変化」をすることでも有名な言語です。日本語には「て、に、を、は」のように、単語の最後に「助詞」をくっつけて文を作ります(私猫を見。)が、ロシア語では単語の最後の部分の形が変わることで同様の意味を表します。みなさんが学んでいる英語にはそのような「助詞」や「格変化」のルールがなく、前置詞などを使って同じことを表します。この点だけを見ると、日本語とロシア語は似ていますよね。
 文字は難しいけど、文法は少し日本語と似ているロシア語や、文法のルールは英語に似ているけど、日本人に馴染みのある文字を使っている中国語、発音がわかりやすいスペイン語…など、英語以外の言語に着目すると、言語についての考えや理解を相対化するきっかけになります。

●「敬語は日本語にしかない」?
 本当でしょうか。確かに日本語の敬語には複雑なルールがありますし、「礼儀正しい日本人」のようなイメージもありますよね。しかし、日本語以外の言語が敬意表現を持たないとは考えられません。ロシア語では「あなた(ты)」ではなく「あなた達(вы)」のように呼びかけの際に複数形を使うことで敬意を表すし、英語ではCan you~?ではなくCould you~?と、過去形の表現を使うことで敬意を表すことができます。余談ですが、フィンランド語でもロシア語と同様に「あなた達」という言い方で敬意を示すのですが、大統領くらいの偉い人にしか敬語を使わない、という話を聞いたことがあります。

 以上のように日本語以外にも敬意を表す表現を持つ言語は存在します。もちろん、日本語ほどに複雑なルールで多種多様な敬意を表すものはないとも考えられます。日本語を含むアジアの諸言語には特に複雑な敬意表現のルールがあり、その中でも日本語は難しい、というのが正確な理解でしょう。例えば、タイ語には、単なる敬意表現を超えて、男女で異なる「丁寧語」のルール(日本語では「~です」「~ます」)があります。

 以上のように、「日本語は世界一難しい言語か?」、「敬語は日本語にしかない?」というテーマを見てきましたが、こうしたことについて考えるための材料の多くは「東京外国語大学言語モジュール」で公開されています。是非、活用してみてください。

外国語を学ぶことは、しばしば「もう一つの窓を持つこと-新しい世界を獲得すること」に例えられます。英語を学ぶ体験や、別の外国語を学ぶ体験が、あなたの言語観や文化観を更に豊かな、風通しの良いものにしてくれることを願っています。

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